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労山熊見山(2015/3/1)

ヘトヘトになるまで


先週末のオダッシュ山に続いて、今週末は同じ日高山脈北端に近い労山熊見山に登ることになった。
爆弾低気圧が過ぎ去った翌日の土曜日。天気予報は晴れ。翌日曜日は早くも次の低気圧が接近してきて、予報は曇りのち雪。
予報だけを見れば、土曜日に登るのが良さそうだが、爆弾低気圧の影響が残って日曜日はまだ風が強そう。
今回の山行を企画したI山さんの最終案は、風の弱まった日曜日に登ろうというものだった。

私は実家の母親の様子を見るために、土曜日に清水町入りしていた。
先週、オダッシュ山に登った後に実家に寄ったら母親の体調が悪そうだったので、木曜日に帯広の病院に連れて行って検査を受けさせた。
即入院の覚悟もしていたが、検査の結果はそれほど心配しなくても良さそうだったので、これで安心してスキーに出かけられる。

日勝ピークのゲレンデそれにしても週に3回も札幌と清水を往復していたら、車の燃料代も高速代も馬鹿にならない。
少しでも燃料費を節約するために、スピード控えめの燃費重視の運転を心がけ、高速道路を利用するのも最低限の区間にとどめる。

爆弾低気圧の影響で、日勝峠を挟んだ清水町、日高町ではそれぞれ20センチ以上の積雪があったはずなのに、峠付近の積雪は期待していたほどではなかった。
低気圧の強風で、降った雪も吹き飛ばされてしまったのだろう。

十勝は完璧な青空が広がっていたが、峠付近だけは雲がかかって、おまけに風も強く、日曜日にずらしたのは正解だったようだ。
しかし、I山さんは日曜日の天気が心配らしく、中止にするかどうか、土曜日の昼を過ぎても未だに悩んでいたのである。
私達は、中止になったとしても、前にも登っている山なので自分達だけで登るつもりだった。
雲に覆われて視界も悪くなるようであれば、旧日勝スキー場跡地で遊ぶという方法もある。
土曜日の夕方頃になって、ようやくI山さんも予定通りに決行する決心が付いたようだ。

シェルター入り口に集合そうして日曜日の朝8時半、日勝峠の日高側シェルター入り口に集合。
集まったのはI山さんとその車に同乗したS藤さん、そして浦幌から駆けつけたI上さん。
先週のオダッシュ山と全く同じメンバーである。

今回の企画は労山熊見山に登って青木ゲレンデを滑ろうというもの。
私は最初、熊見山に登るものだと勘違いしていたが、労山熊見山はその隣の標高1327.9mの山である。
地形図には熊見山の表記しかなく、労山熊見山は通称なのだろう。
熊見山は5年前の3月中頃に一度登ったことがあり、その時は労山熊見山にも向かったが、山頂近くがアイスバーンになっていたので山頂には立たずに終わっていた。

既にボーダーが一人前を登っていて、昨日にも登った人がいたようで、しっかりとしたトレースが残っている。
天気は高曇り。
薄い雲を通して太陽の姿も確認できる。
疎林の中を登っていく空気も澄んでいて、遠くの山の姿まで見通せる。
そして、風はほぼ無風。
I山さんの判断は見事に正解だった。

登るにつれて、背後には北日高の山々が見渡せるようになってくる。
正面に見えるのは日勝ピーク。
日勝トンネル上部のその斜面は、バックカントリーの人気フィールドとなっていて、大型バスまでやってくるとの話である。

林間部分はふわふわのパウダーが積もっていて、帰りは快適なツリーランを楽しめそうだ。
しかし、上に行くにしたがって積雪の表面が風に吹かれて固まったウィンドパックへと変わってくる。
この辺りでは、雪が降った後には必ず強風が吹くので、余程好条件に恵まれない限りは、山頂付近の雪はこんなものなのだろう。


後ろに日高の山々が見えてくる
S字を描く国道のシェルターと、その先に日勝ピークの白いゲレンデが見える

山頂が見えてきた 十勝平野を眺めながら登る
右手奥に労山熊見山の山頂が見える 十勝平野を眺めながら登っていく

労山熊見山山頂1時間ちょっとで山頂に到着。
国道から簡単にアプローチできるのもこの山の魅力である。
眼下には清水町の街並みが見えている。
街外れにある私の実家の屋敷林まで確認できる。
先週登ったオダッシュ山が労山熊見山から続く稜線の向こうに頭を少しだけ出していた。
その先の大雪の山々も低い雲の上に白い頂を見せている。
直ぐ隣には、去年登った双朱別岳が穏やかな山容を見せている。
日勝ピークの方向には沙流岳から剣山まで、日高山脈独特の鋭利な稜線が連なっていた。


労山熊見山山頂からの眺め
私の故郷の清水町市街地が見える

労山熊見山山頂からの眺め
稜線の上にオダッシュ山、その上に大雪の山並み

労山熊見山山頂からの眺め
日高山脈らしい鋭利な稜線が続く

そんな風景を楽しんだ後は、いよいよ眼下に広がる青木ゲレンデを滑り降りる。
青木ゲレンデは、山頂の東側に広がるすり鉢状の地形だ。樹木が疎らに生えているだけで、雪質が良ければ気持ち良く滑れそうである。
青木ゲレンデ山頂直下からはシュカブラの硬い雪面が続いているので、慎重に下りていく。

慎重に滑っていたつもりが、吹き溜まりにスキーの先端が刺さり、頭から転んでしまった。
その拍子に板も外れてしまったが、今のビンディングに変えてから、転んで外れるのは初めて。
TLTビンディングは外れにくいなんて話も聞いていたので、これで安心できそうだ。

林間部分まで下れば雪質も良くなるだろうと期待して滑っていくが、何処まで下ってもウィンドパックされた雪質が続く。
各自がすり鉢状地形の別々の場所を下るが、何処の雪質も同じ様なものらしい。
途中で皆で集まり、この斜面を下まで下っても意味が無いとの結論に達し、尾根まで登り返すことになった。

下界を眺めながら一休み標高差75mを登り返して、尾根の上へと出てきた。
そこで軽く食事をしてから、今度は登ってきた国道方向に向かって滑り下りることにする。
そこから国道のシェルターまで続く斜面は、ほづゲレンデと呼ばれ、最も一般的な滑降ルートである。

日勝峠付近の山ですべりを楽しめる斜面には、個人の名前が付けられているものが多い。
最初に滑った青木ゲレンデを、I山さんは間違えて星野ゲレンデと呼んでいたが、どうせ一部の人の間だけで使われる通称なのだから、勝手にI山ゲレンデと名付けてしまっても良いかもしれない。

ほづゲレンデの最初のオープンバーンは、表面が軽くクラストしているけれど、滑るのにそれほど支障にはならない。
ようやく気持ち良く滑られるような雪に出会えた感じだ。
そこを途中まで滑ったところで、もっと良い雪を探し、トラバース気味に滑ってもう一度尾根の上に出る。
そしてそこで、素晴らしいパウダースノーの斜面を見つけたのである。
しかもそこには、数本のシュプールがあるだけで、殆ど荒らされていなかった。
そんな斜面を見ると黙ってられないI上さんが真っ先に飛び出していき、直ぐに姿が見えなくなった。


日勝ピークを眺めて
正面に見える日勝ピーク、眼下には最高のパウダーゲレンデ

パウダーを滑るその後を追って、私も滑り降りる。
ターンするたびに、雪面の上にスキーの板が浮かび上がってくる。
適度な感覚で生えている木々の間を縫うように滑っていく。
先に下りていったI上さんの姿は全然見えてこない。
I上さんの描いたシュプールだけが、森の奥へと続いていた。
パウダースノーを目の前にすると、行けるとこまで行ってしまうI上さんなのである。
途中でI山さん達の滑る姿を写して、一番最後から私も滑り降りる。
皆のシュプールの跡を追っていくと、ようやくトドマツの森の中に集まっている4人の姿を見つけた。
満足そうな笑顔が皆の顔に浮かんでいた。


I上さん I山さん
常に一番最初に突っ込んでいくI上さん スプレーを上げて滑るI山さん

登り返す全員一致でもう一度登り返すことになる。
こんなに良いパウダースノーに出会えるなんて、誰も考えてはいなかったのだ。
I上さんは「今シーズン一番だ!」と言って興奮している。
雪の少ない浦幌に転勤してしまったI上さんにとって、こんなパウダーを滑れる機会なんて殆どないのだろう。
30分かけて、標高差125mを登り返す。

今日は他に数名がこの山に入っていたが、何故かこちらの斜面には入ってきていない。
私達がここのパウダーゲレンデを独占しているようなものだ。
家に帰ってGPSのデータを確認してから気が付いたのだが、この時の私はほづゲレンデを滑っているつもりだった。それが何時の間にか、尾根を越えてほづゲレンデとは反対側の斜面を滑っていたのである。
これでは空いているのも当然である

かみさんの滑り遠くの山の頂に雲がかかり始めた。風も少し吹き始めていた。
天気は確実に下り坂に向かっているようで、切り上げるにはちょうど良いタイミングである。

先ほど滑った場所から少し左側に向かえば、そこはまだ誰も滑っていない無垢のゲレンデである。
今度もやっぱり、I上さんが先陣を切って滑っていった。
順番に皆でその後を追う。
かみさんが珍しく「キャッホー」と楽しそうな叫び声を上げながら滑っている。
佐藤さんから「ほらほら、奥さん向けの斜面だよ!」と何度も言われていたとおり、適度な斜度があって、形の良いダケカンバやトドマツが点在する、かみさん好みの斜面なのである。


私の滑り S藤さん
迫力のない私の滑り スピードに乗るS藤さん

最後は先ほどと同じ場所に全員が集まった。
「いや〜、良かった」、「最高だね」との感嘆の言葉が皆の口から次々と発せられる。
「あれ?まだこんな時間だ」とI山さん。
確かに、時間はまだ12時半である。
「こんなパウダーには今シーズンはもう巡り会えないかもしれない」とI上さん。
何だか妙な方向へと話が進んでいた。
かみさんも「そうよね、ようよね」と相槌を打つばかり。

回りの山にも雲がかかり始めたS藤さんが一人「俺はもう体力の限界だ」と言っているけれど、誰もそれを真剣に聞いていなかった。
「ゆっくり登れば大丈夫だから」
こうして3回目の登り返しとなったのである。

自称還暦ライダーのS藤さん、フーフー言いながらゆっくりと登ってくる。
私もS藤さんとは同い年で、さすがに3回目の登り返しはきつく、先を登るI山さんとかみさんの二人には大きく遅れてしまう。

再び30分かけて登って来ると、さっきよりも更に雲が広がってきていた。
何時もならば天気が崩れてくるとがっかりするところだが、今回だけはその天気の崩れがとても嬉しく思えたのである。
もしも天気が良かったならば、辺りが暗くなるまでI上さんは帰るとはいわなかったに違いない。

名残惜しそうに滑るI山さんそうして、今度こそ最後の滑りとなる。
スキー場のゲレンデでしか滑ったことのない人には、あっという間に滑り降りてしまうようなところを30分もかけて自分の脚で登っていくなんて、信じられない行為に思えるかもしれない。
私も昔はそう思っていた。
しかし、美しい自然に囲まれた山の中で、こんなに素晴らしいパウダースノーを滑れば、自分の脚で登る辛さなんて吹き飛んでしまうのである。

明日から月曜日だと言うのに、そんな事は全く忘れ去って、へとへとになるまで遊んでしまう子供のような大人達。
身体は疲れきってはいたけれど、心は大きな満足感に包まれていたのである。



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