そこから先は沢を渡るのだけれど、下山時に登り返しにならない様に等高線に沿う様に進んだ方が良いとされている。
ところが頼りにしているトレースは、そのセオリーを無視するかの様にアップダウンを繰り返していた。
「本当にこれで良いのかな〜」と思いながらも、初めて登る山なので素直にそのトレースに従って登っていく。
しかし、そのトレースが沢を渡るところになって、とうとう信じられなくなってしまった。
そこで沢に下りると、帰りはここを登らなければならない。
あらかじめGPSに記録しておいた沢を渡るポイントももう少し先になっている。
「ダメだ、もっと先に行くぞ!」
「えっ?だって赤いテープも付いているわよ?」
「テープが全て正しいとは限らないんだ!」
と、トレースを無視して自分でラッセルしながら先に歩き始めたけれど、内心では「あ〜ぁ、またやっちゃったかな〜」と少し反省していた。
これまでに何度も同じような場面で墓穴を掘っているのである。
しかし今回は違っていた。そこからもう少し登ったところにちょうど良いスノーブリッジがあったのだ。
そしてそこにも赤いテープがぶら下がっていた。
「ほらな、言ったとおりだろう〜」と少しだけ得意になる。
沢から急な斜面を登ったところに消えかけたトレースが残っていた。
上から滑り降りてきたトレースのようだが、多分先週末のものだろう。
その後に降った雪で殆ど埋まってしまっている。
それでも何もない場所を歩くよりは少しはましだった。
この辺りからは何処を登っても音江山山頂に続く尾根に出られるはずなので、沢伝いに滑り降りてきた様なトレースに従って登り始める。
しかし、自分でのラッセルはやっぱりきつい。
隣の尾根の方に向かえば先程までのトレースがあるだろうと考えて登っていくと、良い具合にそのトレースに合流できた。
ところが再び苦労させられることになる。
急角度で登るトレースでどうしてもスリップしてしまうのである。
ずり落ちない様にストックで体を支えながら登らなければならないので、疲労が倍になる。
かみさんが「先に行っても良い?」と後から声をかけてきた。
「ダメ!」と言ったものの、体力が続かなくなり、途中で道を譲って先に行かせてやる。
邪魔者がいなくなったかみさんは一気に自分のペースで登り始め、あっという間に姿が見えなくなってしまった。
まるで、1車線の高速道路で遅い車にイライラさせられて、追い越し車線が始まったところで一気にアクセルを踏み込む時の自分を見ている様である。
やっとの思いで尾根に上がると、その後は傾斜も緩くなり、余裕を持って登ることができる。
雪化粧したシラカバが美しい。
そのシラカバの上空には青空ものぞいてきた。
太陽の日射しで暖められたためか、シラカバの枝から雪が剥がれ落ちて、頭の上からパラパラと降ってくる。
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