傾斜は更に急になって、ジグザグに斜面を登っていく。
古いトレースが残っているのでそこを登ろうとしたが、私には急すぎてスキーがスリップしてしまう。
そのトレースは諦めて、自分の角度で登ることにする。
無理をするよりは、その方が負担もずーっと少ないのである。
直登してくるボーダーのカップルに追い越されるが、これはしょうがない。
次第にガスがかかってきた。
所々に硬く締まった雪面が現れて、スキーのエッジが効かずにずり落ちてしまう。
そうなってくると全身に力が入り、一気に体力を消耗する。
そろそろ頂上が近いかなと思って上を見るが、先程のカップルがずーっと上の方に霞んで見えている様子からは、まだまだ遠いようだ。
それよりも自分達よりかなり下に居たはずの人影が直ぐ近くまで迫ってきていたので驚かされた。
スノーシューで直登している人に追い抜かれるのはしょうがないが、スキーで登っている例のおじさんおばさんグループにまで抜かれるのは許されない。
と思っても、私のスキーは横滑りばかりしていて、さっぱり先に進めない。
とうとうそのグループの先頭の男性二人に追い越されてしまった。
もうつまらない意地を張るのは止めにして、その二人の後を着いて行く事にした。
ところが彼らが普通に登っていく硬い雪面で、私のスキーは相変わらず横滑りばかりしている。
結局その後を追うことを諦め、再び自分の角度で登り始める。
1時間もかからずに登れるチセヌプリだけれど、ここを簡単に登れた事は一度も無い。毎度毎度苦労させられるのだ。
ヨレヨレになって後ろを振り返った瞬間、信じられない光景を目にして唖然とした。
私達の登ってきたトレースの中を、例の集団の中のおばさんグループが凄い勢いで登ってきていたのである。
「よりによって何で私の後を!」
尻に火が付くとはこんな時の状況を表すのかもしれない。
スキーがスリップしようが横滑りしようが、もうどうでも良かった。
そこからがむしゃらになって登り始めた。
すると間もなく傾斜が次第に緩くなってきた。徐々に登る角度をきつくして最後は真っ直ぐに山頂へと向かう。
時計を見るとほぼ1時間。何時もと殆ど変わらないタイムでの登頂だった。
頂上では昨日と同じような強風が吹き付け、おまけにガスに包まれて周りが何も見えない。
頂上の標識の前で写真を撮って、早々に滑り下りることにする。
しかし完全なホワイトアウトの状態では、どちらに向かって滑れば良いのか見当も付かない。
幸い、何年か前に滑ったコースをGPSに登録しておいたので、それを頼りに方向を定める。
滑ると言っても、横滑りで下りるだけである。
距離が開くとお互いの姿さえ見えなくなるので、少し滑ってはかみさんの姿を確認する。
雪質は、風に飛ばされた雪が薄く積もった状態で昨日よりはましだけれど、これでは滑りようが無い。
苦労して登って、景色は何も見えず、そして下山はズルズルと滑り落ちるだけ。
「これじゃあ登った意味が何も無い」と思えてきた頃、ようやくガスが薄れて、下界の風景が見えるようになって来た。
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