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徳舜瞥山(2010/02/13)

洞窟よりも山へ


 週末は天気も悪そうなので、大滝村の円山洞窟で「にょろにょろ」でも見てこよう。
 そんな計画で札幌を出発したところ、千歳を過ぎる辺りから、一冬に数回しか見られないような素晴らしい青空が広がってきた。
 こんな時に洞窟の中にもぐってにょろにょろなんか見ている場合ではない。
 念のためにスキー板も車に積んであったので、直ぐに次の計画に変更、同じ大滝村の徳舜瞥山に登ることにする。
 しかし、家を出たのは7時40分過ぎ、山に登るのならもう少し早く家を出るべきだった。
 今時期はまだ日も短いので、安全のためには時間に余裕を持って行動した方が良いし、私はせっかちな性格なので、こんな条件の良い時はなおさら、他の人より早く行動しないと気がすまないのである。
 途中の樽前山の登山口では、既に沢山の車が停まっていて、山登りの準備をしている。そんな様子を見ると、余計に焦ってくる。
 大滝村の市街地についてもまだ気が急いているので、地図も確かめずに車を走らせていたら、案の定道に迷ってしまった。
 適当に見当を付けて走っていくと、登山の準備をしているグループを見つけたが、以前に我が家が登り始めた場所とは明らかに様子が違っている。
 地図を開きながら、その中の一人に「ここってどの辺になるんでしょう?」って聞いてみると、「あなた方もにょろにょろを見に来たのですか?」との答えが返ってきた。
 何のことは無い、迷った挙句ににょろにょろ見学地まで来てしまったのである。

道の真ん中で寝ているピレネー犬 ようやく現在地を把握できたので、今度はしっかりと地図を確認しながら登山口へと向かう。
 既に時間は10時近くになっていた。
 「もう車を停める場所も無いんじゃ・・・」と思いながら現地までやってくると、予想に反してそこには1台の車も見当たらなかった。
 「こんなに良い天気なのに、何で誰もいないの?」と驚いていたら、道の真ん中で丸くなって寝ていた白い大型犬を危うく轢いてしまいそうになる。
 かなりの老犬のようで、ようやく私達に気がついて、のっそりと起き上がってきた。
 この犬に会えるのも、我が家が徳舜瞥山を登るときの楽しみの一つになっている。

真っ白な雪原にトレースを描く 10時10分スタート。
 真っ白な雪原にはウサギの足跡が付いているだけだ。
 そこに新たに自分達のトレースを描くのは何とも気持ちが良い。
 10センチ程積もった新雪の下は硬く締まっているので、ラッセルも苦にならない。
 快調に登っていくと、誰かが滑り降りてきた跡を見つけた。
 真新しいシュプールなので、早朝に登った人がもう降りてきたのだろうかと驚いたが、良く見るとその上にかすかな雪が積もっていて、それが昨日の登山者のものだと分かる。

 一点の曇りも無かった青空に、いつの間にか低い場所に雲がかかり始めていた。
 私が焦っていたもう一つの理由がこれである。
徳舜瞥山の山頂が見える 朝に確認したひまわりの衛星画像では日本海から雲が進んできていたので、こんなに素晴らしい青空が何時までも続くはずは無いのである。
 我が家が冬山に登る時、曇り空が晴れてくることは殆ど無くても、青空が途中で曇ってしまうのは毎度のことだった。
 雲に隠されないうちにと、慌てて正面に見えている徳舜瞥山山頂の姿をカメラで撮影する。
 前回登った時も、同じようにして山頂の写真を撮ったけれど、その時は本当にそれが最後に見る山頂の姿となってしまったのだ。
 登ってきた後ろを振り返ると、低い山の連なりの稜線越しに真っ白な山頂がちょこっと頭を出しているのが見えた。
 羊蹄山である。
 更に高度を上げていくとその手前にもう一つ小さな山が見えてきた。こちらは尻別岳。
 二つの山がこの様に重なり合って見える光景は初めて目にするもので、見慣れた山なのにとても新鮮に感じられる。


羊蹄山が見えた
羊蹄山と尻別岳の山頂がちょこっとだけ顔を出している

 なだらかな傾斜が続く雪原を登りきって、今度はダケカンバの森の中へと入って行く。
 冬のダケカンバの森の中は正に白一色の世界である。
 野ウサギの真新しい足跡があちこちに付けられているけれど、その姿は全く見られない。
 もっとも、辺り一面真っ白な森の中で真っ白な野ウサギの姿を見つけ出すのは至難の業である。


真っ白なダケカンバの森 ウサギの足跡
真っ白なダケカンバの森の冬景色 雪原に続くウサギの足跡

 途中で林道を横切ったり、林道沿いに歩いたりするが、持っている地形図とは林道の位置が違うようなので、現在位置がはっきりと分からない。
顔入れの儀式 途中からは、昨日のものと思われる1本だけのトレースから離れて、自分の好きなルートで登ることにした。
 前回登ったときのルートをGPSに落としてあったけれど、そのルートからも外れているようだ。
 でも、幅の広い尾根状の地形の中を登るので、上に向かって登って行きさえすれば道に迷う心配も無い。
 標高が上がるに従って、枝が折れそうになるくらいにたっぷりの雪をその体にまとった木々が、周りの風景を更に真っ白に染めてくる。
 ちょうど良い雪の塊を見つけると直ぐに顔入れの儀式を行ってしまう私達だけれど、そこら中に制作意欲を掻き立てられるような塊があるものだから、いちいち遊んでもいられない。
 トドマツなどが雪に覆われてできた、雪山のモンスターも現れるようになってきた。
 木々の無い開けた場所へと出てきた。
再び姿を見せた徳舜瞥山 そこで再び、徳舜瞥山の山頂が姿を現す。
 既にその背景は雲に覆われてしまっていた。あと1時間でも早く登り始めていれば、ここで青空を背景にした徳舜瞥山の姿を見られたのにと悔しくなってしまう。
 それでも、まだ雲が高くて、その山頂まではっきりと見えるのだから、前回登ったときと比べたら十分に恵まれていると言えるだろう。
 残念ながら羊蹄山の方はその山頂が雲に隠れてしまっていた。
 こちらも是非青空の下で見てみたい風景である。
 広場の真ん中に、パイプを組み合わせただけの展望台のような施設が建っていた。
 何かの観測施設なのだろうか。
 上に登ったら眺めが良さそうだけれど、階段が無いので登れないのが残念だ。


親子の木 展望台?
かみさんが名付けた親子の木 何かの観測施設だろうか?

真っ白な森 広場を横切って、再び真っ白な森の中へと分け入る。
 「うわ〜」、「すげ〜」
 感嘆の声しかでてこない。
 私達が雪山に登るのは、こんな風景を見るためだけと言い切っても良いくらいだ。
 家の近くの山ではこれ程の雪景色は見ることができず、わざわざ遠出してきた甲斐があったと言えるだろう。
 周りをモンスターに囲まれ、まるで樹氷で有名な蔵王に来ているような雰囲気である。
 そのモンスターが森林限界の境界となっていて、間を抜けていくと、徳舜瞥山が一気にその全貌をあらわにする。


モンスターをすり抜ける 先客?
モンスターの間を通り抜ける 先客の足跡が・・・

徳舜瞥山
森林限界を抜けると現れる徳舜瞥山

 次第に天気が崩れてきそうなので、そのまま休まずに登り続けることにした。
 今日初めて、スキーのクライミングサポートを一番高い位置に切り替える。徳舜瞥山はこの標高1050m地点まで、特に傾斜の急な場所も無く登ってこられるので、初心者にもお勧めのコースかもしれない。
ブッシュが多い斜面 ただしここから先は、冬の季節風がまともに吹きつけるため、急な斜面は氷結していたりクラストしていたりと、その様相がガラリと変わってくる。
 前回は、ガリガリのアイスバーンとなっていて、途中で登るのを断念していた。
 今回も山頂を目指す気持ちは最初から無く、行ける所まで行ってみようとの軽い気持ちで登り始めた。
 雪の状態は良く、かろうじてスキーのエッジも利かせられるので、順調に登り続ける。
ブッシュが多いので、それを上手く避けながらルートを決めなくてはならないが、そのブッシュが逆に安心感も与えてくれる。
 もしも全くの平らな斜面だったら、滑落の恐怖に足がすくんでしまうところだけれど、これならばたとえ滑落しても、途中のブッシュにつかまって止まることができそうである。
 かみさんが「これ以上登ったら滑り降りられなくなる」と言うので、途中からはスキーを外してつぼ足で登る。
 軽アイゼンくらいは常に装備しておかなければと思いつつも未だに購入していない。
つぼ足で登る まあ、アイゼンが必要となるような場所にまで踏み入らなければ良いだけの話しだけれど、やっぱりここではアイゼンが欲しくなる。
 幸い今日の雪質は柔らかめなので、スキー靴の爪先は十分に雪面をとらえることができた。
 1200m付近の緩やかな尾根まで登ってきたところで一休みして、かみさんが追いついてくるのを待つことにする。
 すると「靴擦れが痛い」と顔をしかめながらそこまで登ってきた。
 前回も春香山で靴擦れのため一皮むけてしまい、今回はしっかりとテーピングしてきたはずなのに、やっぱり駄目だったようだ。
 粉雪も舞い始め、頂上付近も次第に霞んできていたので、今日はここまでで止めることにした。
 時間は12時40分、登り始めてからちょうど2時間半が経過していた。
 北海道雪山ガイドによると登り3時間50分となっていたけれど、ここから頂上までの標高差は約100m。傾斜は更に急になり、頂上まではまだまだ時間がかかりそうだ。


1200付近からの眺め
標高1200m付近で登頂断念

間近に迫った山頂 ホロホロ山も見える
山頂は雲に隠れつつあった ホロホロ山も隣に見える

 スキーをでもした場所まで降りて、そこから先はブッシュを避けながら慎重に滑り降りる。
森林限界まで降りてきたら、そこにはまだ太陽の日射しが届いていた。


ブッシュを避けて慎重に滑る モンスターに向かって滑り降りる
ブッシュの間を慎重に滑る モンスターに向かって滑り降りる

森の中で昼食 森の中に適当な場所を見つけて昼食にする。
 風も当たらず、太陽の日射しが心地良い。
 そこにもウサギの足跡があったけれど、結局その姿は一度も見られなかった。
 きっとウサギの方からは私達の姿が見えていて、「サッサと帰ってくれ」と思っているのかもしれない。
徳舜瞥山は滑りを楽しみにしている人には退屈な山と感じるだろう。
開けた斜面は無いし、クライミングサポートも低い位置のままで登ってこられるような斜度しか無いのである。
でも、深雪の中でも止まらない程度の斜度はあり、我が家はこれで十分に楽しむことができる。

 遠くでスノーモービルの音が聞こえる。
邪魔くさいスノーモービルの轍 途中の開けた場所まで降りてくると、そこには縦横無尽に走り回ったスノーモービルの轍が残されていた。
 山の写真を撮ろうとしても、轍の跡が写ってしまうのでは興ざめである。
 広い場所で走り回りたい気持ちは分かるけれど、それにしても「何でわざわざここで?」と腹が立ってくる。
 これではまるで、静かにしなければならない場所でおだって走り回っている子供と同じじゃないかと思えてしまうのだ。

 車を置いてある場所まで一気に滑り降りる。
 するとまた、あのピレネー犬がのっそりと起きてきて私達を出迎えてくれた。
 最後にお別れの挨拶をして、徳舜瞥山を後にする。
 その山頂に立てるのは何時のことになるのだろうか。


ピレネー犬のお出迎え 最後の挨拶
のっそりとお出迎えしてくれる 最後のお別れ

駐車場 1050m台地 1200m尾根

1:50(0:30)

0:40(0:20)
距離:4.1km 標高差:630m
( )内は下りの時間


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