北海道キャンプ場見聞録
我が家のファミリー通信 No.74
鉄ちゃんになって新十津川へ
5年ぶりの鉄ちゃんの旅は、夜中に積もった雪を踏みしめながら駅へと歩くところから始まった。
列車を使用する旅と言うこともあってついつい薄着で家を出てきてしまったが、後でこれを後悔することとなる。
5年前は廃線の決まっていた江差線を利用したキャンプ旅。
今回は、廃線となるのが確実な札沼線の新十津川駅を目指す日帰り旅である。
札幌近郊の普通列車が乗り放題となる一日散歩きっぷを購入。
近郊とはいっても、遠くは新得、様似、長万部まで行くことができる。
ただ、土曜・休日しか使えないのが、私たちにとっては少々不便なのである。
石狩当別発新十津川行き キハ40 402
札沼線は、退職時の職場へ通勤するのに、あいの里公園駅まで何度も乗っていたけれど、そこから先の区間を乗るのは初めてだった。
新十津川駅まで直通の列車はなく、石狩当別駅からの乗り換えとなる。
定刻7時18分に到着した時、7時45分発の新十津川行き列車は既にホームに入っていた。
時間もたっぷりとあるので、にわか鉄ちゃん気分で写真を撮って回る。
今日の乗客はそんな人ばかりみたいだ。
そして出発を待っていると、7時38分到着の列車から降りてきた人達が次々とこちらに乗り込んできて、1両編成の列車はあっと言う間にほぼ満席となってしまった。
地元の人も混ざっているけれど、そのほとんどは鉄ちゃんと思われる。
石狩当別駅構内
ある種の熱気に包まれて列車は石狩当別駅を出発した。
駅舎の写真を撮ることも楽しみにしていたけれど、これだけ乗客が多いと列車の中を動き回ることもできないので、自分の座っている側に駅舎があることを祈るしかない。
駅舎と言っても、いわゆる待合所である。
札沼線は貨車を利用した待合所が多いようだ。
駅ではカメラを構えた撮り鉄の方も待ち構えていたりする。
駅舎の写真を撮るのなら車で移動した方が確実だろう。
石狩月形駅に到着すると、結構多くの人達が降りていった。
ますます鉄ちゃん率が高まってきた。
列車はここで23分停車する。
石狩月形駅に到着
その時間を利用して鉄ちゃん達は撮影に余念が無い。
撮影するポイントも鉄ちゃんによって様々である。
「なるほど、ここも撮るのか」と、私も参考にさせてもらう。
石狩月形駅の駅舎内
キハ40 402運転席
そのうちに、すれ違う列車が入ってきた。
ホームを挟んで並ぶ2台の列車。その様子を撮影しようとホームを下りたところに鉄ちゃん達が群がる。
私も慌ててその群れの中に入ってカメラを向ける。
鉄ちゃんの仲間になれたようで嬉しくなる。
ホームを挟んで並んだキハ40系の402と401
かみさんは停車中はずーっと座席に座ったまま。
「鉄ちゃんって本当にせわしないわよね」と呆れていた。
月形駅の次の駅である豊ヶ岡駅は秘境駅として知られているらしい。
駅のホームは反対側だったので何も見えなかったが、小さな子供がお母さんにそう説明しているのを聞いて知ったのである。
小学校の卒業記念でやって来たという子供の3人連れや、おばさんのグループなど、鉄ちゃんの層はとても幅広いようだ。
駅名標の後ろの畑にはマガンが群れている
それまで視界を遮っていた霧も晴れてきて、雪が解けたばかりの水田で餌をついばむ白鳥やマガンの姿が見られるようになってきた。
白鳥が編隊を組んで飛んでいる姿も目にする。
今回の札沼線の旅では、これも楽しみにしていた風景の一つである。
ただ、走っている電車の中からその姿を写すのはなかなか難しい。
おまけに窓ガラスも汚れているので、きれいな写真が撮れないのである。
渡り鳥の風景は、また別の機会を作らなければならないようだ。
浦臼までは1日6往復の列車が運行しているけれど、その先の新十津川から浦臼までの区間は1日1往復だけの運行である。
今乗っている列車が新十津川で折り返しとなる。
新十津川ではこの列車が始発であり終列車でもあるのだ。
列車で新十津川まで行ってみようと考え時刻表を調べ、私は初めてこの事実を知ったのである。
このダイヤでは地元の人が利用できるわけはなく、事実上の廃線状態と言っても良いだろう。
2016年3月のダイヤ改正でこうなったらしい。
それ以来、この区間を利用する乗客は殆どが鉄ちゃんだけとなっているのに違いない。
何とも複雑な気持ちになる。
そうして定刻の9時28分、列車は終着の新十津川駅に到着。
列車を下りると、駅長の制服を着た駅長犬ララが出迎えてくれる。
新十津川駅では駅長犬ララがお出迎えしてくれる
平日ならば近くの幼稚園の園児たちが出迎えてくれることは知っていたけれど、駅長犬のことは知らなかった。
調べてみると、ララはすっかり有名になっているらしい。
ここからは鉄ちゃん達の撮影会の始まりである。
駅舎の中では蓄音機でレコードが鳴らされていたり、ちょっとしたお祭りのようだ。
線路はこの先で行き止まり
駅舎内も大賑わい
駅前には唯一のお休み処である「寺子屋愛光」がある。
寒くて堪らないので、そこで一休みしようと入ってみたが、店内は鉄ちゃんで一杯である。ほとんどの鉄ちゃんは、この後の10時始発の列車で引き返すのだろう。
それまでの間の、束の間の賑わいだった。
札沼線終点新十津川駅の小さな駅舎
私たちはこの後、新十津川の開拓記念館を見てから滝川へ向かい、そこから函館本線の列車で札幌まで帰る予定だった。
賑わう駅に背を向け、開拓記念館へ向かう。
途中、ファミリーマートに寄って暖かいカフェラを飲み、冷えた体を温める。
石狩川を渡って滝川市へ
2年前の紀伊半島の旅で、新十津川と関係の深い十津川村を訪れていたので、その展示がされている開拓記念館は是非とも見ておきたかったのである。
しかし、その開拓記念館は冬季休業中だった。
休館日は調べてあったのだが、まさか冬期間が休みだとは完全に想定外である。
新十津川駅から滝川駅までは4.3キロ程度。
1時間に1本程度バスの便があるけれど、バスを待っているのなら歩いた方が早い。
そのまま滝川まで歩こうとしたら、「寒いし風が強い」と散々文句を言われる。
冬季閉館の情報を見逃していたことは非難されるし、こんな時は一人旅の方が気が楽だと思ってしまう。
鼻水を垂らしながら石狩川を渡る。
函館本線を走ってきた列車を見ると、嬉しくなってついついカメラを向けてしまう。
完全に鉄ちゃんになった気分である。
列車を見ると嬉しくなるのは鉄ちゃんの証拠か
滝川市内までやってきて、事前に調べてあった食堂高田屋に入る。
お目当てはチャップ丼である。
名物チャップ丼
要は豚丼なのだが、創業以来継ぎ足してきた秘伝の醤油ダレが売りらしい。
11時開店で11時20分頃に入ったのに、それほど広くない店内は既に結構なお客さんである。
私たちの後にも次々にお客さんが入ってきて、あっと言う間に満員。
殆どが地元の人みたいで、その半分以上がチャップ丼を頼んでいる。
ネットで見た写真では目玉焼きが乗っているのが多かったので、私もプラス50円で目玉焼きを乗せてもらう。
半熟の黄身を崩して肉に絡ませる。
見た目通りの味である。
地元の人に愛される、そんな大衆食堂はとても良い店だった。
ちょっと寂しい滝川の商店街
高田屋を出て次に向かったのが「中川かなもの」
車で滝川市内を通り抜ける時、その古びた建物が以前から気になっていたのだ。
アーケード商店街の中を歩いていく。
滝川の町の中を歩くのはこれが初めて。
道内の町はほぼ全て訪れているけれど、何時も車で通り過ぎるだけ。
列車の旅でなければ、こんな機会はないのである。
何の変哲もない商店街だけれど、何となく楽しくなる。
中川かなものの建物は、最初は丸井今井呉服滝川支店だったらしい。
その名残として、軟石造りのうだつにはお馴染みの丸井今井のマークが刻まれている。
店の中にも入ってみたかったのだが、残念ながらシャッターが下りていた。
中川かなものの建物
日曜日で休みなのかなと思っていたが、シャッターに貼られた張り紙を見てビックリした。
そこには、中川かなものは4月5日に倒産したと書かれていたのである。
わずか数日前の話である。
歴史あるこの建物がどうなってしまうのか、それがとても心配だった。
丸井今井のマーク
破産を告知する張り紙
日曜日だからそうなのか、それとも普段からそうなのか、シャッターの降りた店の多い商店街を歩きながら滝川駅を目指す。
滝川駅前の大きなビルも、核となる店舗が抜けてしまったらしく、何だかとても寂れた雰囲気である。
立派なのは駅の建物くらいだ。
滝川から乗ったキハ40 1818の車内
特急ならば札幌まで直通の列車があるけれど、一日散歩きっぷでは普通列車にしか乗れない。
岩見沢行きの1両編成の列車に乗る。
札沼線の1両編成はほぼ満員だったのに、函館本線を走るこの列車は私たちを含めて数名しか乗客がいない。
途中で止まる駅は、立派な建物の駅舎ばかりだが、そこから乗ってくるお客さんはほとんどいない。
岩見沢では札幌行きの列車に直ぐに乗り継げたけれど、岩見沢駅も初めてなので一旦外に出てみる。
何もない駅前に、反対側に出てしまったのかと思ったが、それが本来の駅前だった。
駅舎だけはやたらに立派である。
平成12年に旧駅舎が火災で焼失し、現駅舎は平成21年に全面開業したとのこと。
岩見沢駅の立派な駅舎
それにしても、滝川も岩見沢も車で通過する時は賑やかな街だと感じるけれど、駅前に立つととても寂れた街に思えてしまう。
これは、道内何処の駅でも同じような状況なのだろう。
赤字路線を次々と切り捨てていく現在のJR北海道のやり方には腹が立つけれど、こうして実際に列車を利用した旅をしてみると、鉄路を利用した地域振興の難しさを実感してしまう。
岩見沢からは、通勤の時にいつも利用していたいしかりライナーに乗って、自宅へと戻る。
寒い一日だったけれど、朝に積もっていた雪は、跡形もなく溶けてしまっていた。