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これが本当の雪中キャンプ

旭岳山麓(3月16日〜17日)

年に一度は冬のキャンプに出かけたくなる。そのチャンスをずーっと窺っていたのだが、なかなかその機会に恵まれず、このままでは雪中キャンプができないままに春を迎えることになりそうだった。
そこで、天気はちょっと心配なものの、今年の冬最後の満月の夜に合わせて、キャンプに出かけることにした。
行き先は旭岳。
かみさんは支笏湖を希望していたが、去年の3月もそこでキャンプをしていた。 2年連続で同じ場所に行くのも能がないのである。

私の頭の中では、流氷キャンプも候補に上がっていた。
しかし、かみさんはこの流氷キャンプには全く興味を示さない。確かに、優しさの欠片もない流氷キャンプは、女子の好みには合わないのだろう。
しかも、私が密かに考えていたのは究極の最果て流氷キャンプ。このキャンプを実現させるためにはタイミングも重要で、年によってはチャンスのないままに終わってしまうことも珍しくない。
後で確認してみると、今回はその究極流氷キャンプのまたとない機会だったのである。このキャンプの詳細をここで書いてしまうと、実現しないままに終わってしまいそうな気がするので、敢えて伏せておくことにする。
何時の日にか、流氷に埋め尽くされたその地にテントを張ってみたいものである。

ロープウェイ駅舎に到着そうしてやって来た、旭岳ロープウェイの駐車場。
ここまで来る途中、薄曇りの空には太陽の姿も見えていたのに、到着する頃にはもう消えてしまっていた。
当然のことながら、旭岳の姿も雲の中だ。
この日の旭川の天気予報は曇り一時雪。前日になって曇り時々晴れの予報に変わったが、山の天気はこんなものだろう。
明日の晴れの予報に期待するしかない。

ロープウェイ駅舎の中に置いてある入山届を見ると、前日に裏旭で野営をした人がいたみたいだ。
ざっと見たところでは、それ以外に山中泊らしい入山者は見当たらなかった
私は、入山目的の欄に「旭岳山麓でのキャンプ」と記入しておいた。
車に戻ってきて、ダッシュボードの上にも、外から見えるように下山予定日を書いた紙を置く。
駐車場に最後まで残された車のために、山に入ったスキーヤーが戻ってこない等と勘違いされるような事態は避けたいのである。

旭岳山麓での冬のキャンプは今回が4回目。
前の3回は、大型そりに荷物を乗せて運んでいたけれど、今回の荷物はザックだけ。
重たいザックを背負ってスキーコースの急斜面を登るのでも大変なのに、そりを曳いて良くこんなところを登ったものだと、我ながら感心してしまう。

トレースの中を歩くかみさんは、ザックの中身に余裕があるからと、重さなど気にしないで荷物を詰めていた。
家で量った時のザックの重さは17キロ。
それがどれくらい重いのかも良く考えずに背負ったのだが、やっぱり無理があったようだ。
重たい、重たいと文句を言いながら歩いている。

森の中を滑り降りてきたトレースが有ったので、スキーコースから離れてそのトレースの中を歩くことにした。
GPSに登録しておいた今回の野営予定地までのルートからは少し外れるけれど、深雪の中をラッセルしながら登るのよりは楽だろうと判断したのだ。

次第に雪もちらつき始める。
トレースの中を歩いていると、そのままどんどん登って行ってしまうので、適当な場所からトレースを外れ、いよいよ深雪の中へと足を踏み入れる。
今時期の雪なので、それ程埋まることもなく歩けるだろうと考えていたが、甘かった。
真冬と同じくらいのふわふわのパウダースノーは、大型のスノーシューを履いていても膝まで埋まってしまうのだ。
かみさんが履いているMSRのスノーシューは、こんな深雪の中を歩くのには向いていない。
私が歩いた後でも、時々ズボッと埋まって、その度に文句を言っている。
私も意識的に、歩幅を狭くし雪を踏み固めるように歩いて、かみさんのために道をつけていく。

雪まみれ雪の降りもますます強くなってきた。
気温はマイナスだが、それ程寒くはない。
途中で「暑い」と文句言って上着を脱いでいたかみさんだが、その下に着ていた服が濡れてきていたので、もう一度上着を着るように忠告する。
そして、かみさんが上着を脱いだり来たりする度に、そのザックを背負い直すのをお手伝いする。

無理を言って連れてきた手前、かみさんがへそを曲げない様に面倒を見なければならないのだ。
しかし、後でかみさんが言うには、決して文句を言っている訳ではなく、重い、暑い、歩きづらいと、ただ事実を述べただけとのこと。
でも、私にしたら、それらの言葉は全て、こんな無茶なキャンプを企画した私に浴びせられている文句にしか聞こえないのである。

今回の野営予定地は、4年前のキャンプの際に見つけた展望抜群の場所である。
そこは、南側の崖下に二見川が流れていて、遮るものが何もなく大雪山の山並みが見渡せ、そしてそれら山々を赤く染めながら登ってくる朝日も楽しめるのだ。
4年前の時は雨が降った後で雪が固く締まり、その展望地まで苦も無く歩けた気がする。

しかし今回は、膝までの雪を一人でラッセルしながら歩かなければならない。
途中のトレースに頼りすぎたおかげで、目的地まで遠回りになり、しかも余計に登ってしまっていた。
GPSを何度も確認しながら、正しいルートに戻ろうとするが、アカエゾマツの森の中は起伏も激しく、思った方向に進めなくなることも度々。
目的地到着これはこれで面白いゲームとも言えるのだが、条件が少し悪すぎた。
深い雪、重たいザック、ますます激しく降ってくる雪、私の後ろから「大丈夫なの?」と心配そうに付いてくるかみさん。

そうしてようやく見覚えのある場所に到着した。
歩き始めてから約1時間半で、本日のキャンプ地に到着である。
我が家のキャンプの中では、今回が荷物運びに一番時間がかかっていた。
まあ、荷物運びというよりは、冬山登山と言った方が、適切な表現かもしれない。

降りしきる雪の中でのテント設営。
これも初めての経験だった。
細かい作業はオーバー手袋を脱いでやるしかなく、おかげで中に履いていた手袋を濡らしてしまった。
テント設営完了山スキーの時にも使っている手袋なのだが、完全防水ではないのだ。
予備の手袋を持ってきていて助かった。

設営を終えてテントの中へと入る。
上着も濡れていて、ザックはカバーをかけていても雪まみれ。
テントの中はできるだけドライに保ちたいが、注意しながらテントの中に入ったつもりでも、どうしても濡れてしまう。
冬期間に山を縦走するような登山者はどうやっているのか、とても興味がある。
多分、シュラフ以外は濡れても大して気にしないのだろう。
テントの中に雪が少し入ったからといって、それをいちいちティッシュで拭いたりしないことだけは確かだと思われる。

 
我が家のテント   我が家のテント
今回の野営地   本当はもっと絶景が広がっているはず

金麦お互いのテントの中を整理し終えた後は、私のテントの中でビールを飲む。
これまでの旭岳キャンプでは、荷物運搬にそりを使っていたこともあり、前室のあるタイプのテントを張っていた。
今回は山装備のキャンプなので、テントも小型。
雪が降っているので出入り口も閉めたまま。
山のテン場で雨に降られている様なものである。
ビールを飲むしかやることが無いのだ。
ただ、同じようなシチュエーションでも、大きく違っていることが一つだけあった。
テントの上をサラサラと雪が流れ落ちる音を聞きながら飲むビールは、格別に冷えているのである。
冷えすぎていて、アルコールを飲んでいる気がまるでしないくらいだ。

森の中の散歩にしばらくすると雪も止んできて、ようやくテントの外に出ることができた。
眼下に広がる広大なアカエゾマツの森。
その向こうに見えるはずの小化雲岳などは完全に雲の中である。
スノーシューを履いて真っ白に雪化粧した森の中を歩き回る。

雪原の中にぽっかりと穴が開いているところがあり、穴の底には笹が茂る地面まで見えていた。
そこだけ地熱が高くなっているのだろうか。
旭岳温泉も近く、そんな場所があっても不思議ではない。
間違ってその穴に落ちたとしたら、一人では這い上がれないだろう。
なにも無さそうな森の中にも危険は潜んでいるのだ。


雪の中の散歩   雪面に開いた穴
お山の大将?   ここに落ちたら一人では這い上がれないかも

テントの中で直ぐにまた雪が降り始めて、テントの中に避難する。
今日はもう天気の回復は諦めた方が良さそうだ。
夕食は、我が家の雪中キャンプ定番キムチ鍋。
食後はワインを開ける。
冷え過ぎたワインは、ビールと同じくがぶがぶと飲んでしまいそうなので、ホットワインにしてちびりちびりと飲む。
明日の朝日を期待してシュラフにもぐり込んだ。

家で寝ている時よりも熟睡して目が覚めた。
隣のテントから「月が出ているわよ」と、かみさんの声が聞こえてきた。
時間はまだ午前4時前。テント内の気温はマイナス3℃。シュラフの中はほんわりと暖かく、そこから抜け出す気にはなれない。
「あ〜、また雲に隠れちゃった」
その声を聞いて、また目をつぶる。

しばらくして再び「わー、月が綺麗」の声。今度は、気合を入れてシュラフから抜け出し、外の様子を窺う。
すると、満月は既に西の空に沈みかけ、そして上空には、雲のない青黒い空が広がっていた。
慌てて服を着込んで、カメラと三脚を抱えて、テントの外へと出る。三脚にカメラを取り付けて、それを西の空に向けた時、既にそこに月の姿は無かった。
西の空から湧き上がってきた雲が、月を隠してしまったのである。


キャンプの朝
満月の姿を写し損ねた

テントの中から   雪の積もったテント
蓑虫状態のかみさん   夜に降った雪はこの程度

朝日は見られそうにない雲の流れも速いので、直ぐにまた姿を現すだろうと待っていたが、雲はますます広がるばかり。
満月の写真は諦めて、テントの中でコーヒーを飲みながら日の出を待つことにする。
しかし、その間にも雲は広がり続け、何時の間にか空全体が雲に覆われてしまっていた。

「今日は天気が良くなるんじゃない?」
「う、うーん、天気予報ではそうなっているんだけど」
とどめを刺すかのように、再び雪が舞い始めた。
スマホでレーダー画像を確認して驚いた。大きな雪雲が大雪山に近づきつつあったのである。
その雪雲が通り過ぎるまでには1時間以上はかかると思われる。。
満月ばかりではなく、朝日も諦めるしかなさそうだった。

朝食はキムチ鍋の残りを使ったうどんと雑炊。
湯気が立ち込めて、テントの中がまるでサウナ風呂状態となる。
今日はもうテントを片付けて帰るだけなので、それでテント内が結露しても大して気にはならない。


雲が広がる   朝食
東の空まで雲が広がってしまった   湯気を立てるキムチうどん

降り止まない雪食後はスマホのレーダー画面とにらめっこである。
雪は更に激しく降り始める。

「後1時間で止むかな〜?」
「もう1時間経ったわよ!」

テントの外の様子を窺うが、相変わらず降り続ける雪。

「う〜ん、後20分!」
「本当?」
「後5分!」
「ほら止んだ!」

結局この朝、雪雲が上空を通り過ぎるまで2時間半、テントの中に閉じ込められていたことになる。
その間ずーっと座ったままだったので、危うくエコノミー症候群になるところだった。

テント撤収開始テントから出ると、周辺は今度は濃い霧に包まれていた。
そのまま撤収開始。
内も外もバリバリに凍り付いたテントを折りたたんで、強引に袋の中に押し込む。

昨日歩いてきたトレースは夜の雪と朝の雪で半分くらい埋もれかけていた。
それでも、深雪をラッセルするよりはずーっと楽に歩くことができる。
新たに降り積もった雪のおかげで、森の風景は更に白さを増していた。
そんな様子を楽しみながら歩いていく。

期待していた満月や朝日も見られず残念なキャンプだったけれど、その分、冬のキャンプの醍醐味は十分に満喫できた気がする。


白い森の中を歩く
白い森の中を歩く

白い森の中を歩く   白い森の中を歩く
森の中は白一色   おとぎ話の国に迷い込んだ気分

ぼくが冬のキャンプに求めるものは、非日常の世界である。
最近の我が家は、手段としてのキャンプが多くなってしまった。
一瞬の青空目的は別にあって、キャンプはそのための手段にすぎない。
しかし、冬のキャンプは、その中で非日常の世界を味わうことが目的となるのだ。
今回のキャンプは、まさしくそんな非日常の世界が繰り広げられたキャンプとなったのである。

ロープウェイ駅までもう少しというところで、上空の雲の隙間から太陽が姿を現し、真っ白な森を一瞬だけ美しく照らし出した。
何時もならば「今頃になって晴れてくるなんて」と悔しがるところだが、今回は雪の風景を存分に楽しんだので、少し覗いた青空も大して気にならない。

山を下りた下界には青空が広がっていたけれど、後ろを振り返ると大雪の山々は未だに雲に隠れたままであった。




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