前日までの雨も上がって、久しぶりの澄んだ青空が広がっている。
最高の川下り日和、カヌークラブのメンバーと泊まっていたどんころ野外学校を出発し、空知川のスタート地点へと向かった。
空知川と言えば、落合の通称国体コースと呼ばれる部分が腕に自信のあるパドラーが集まる場所として有名だ。
我が家のようなのんびりパドラーにとっては、空知川の落合なんて全くの別世界といった感じだ。
今回のクラブの例会は、その国体コースの終点がスタート地点となっていた。それでも、下流の方には噴水の瀬と呼ばれる1.5mほどの落ち込みもあるということで、やっぱり緊張してしまう。
その程度の話しのはずだったが、前日の夜になってちょっと状況が変わってきた。スタート地点が国体コースの始まりからに変更になってしまったのだ。
一応下見をして、自信が無い人はその下からスタートするということだが、「何とか下れるかも知れないよ」なんてそそのかす人がいたりして、酔った勢いでちょっと挑戦してみようかななんて考えたりもした。
それが昨晩のお話、当然朝になったらそんな気持ちは一切無くなっていた。
みんなの車の後について、スタート地点の駐車場に到着。そこから下見をしに行くのかなと思ったら、そこでみんなカヌーを車から降ろし始めた。
「なーんだ、結局国体コースにチャレンジする人は少ないんだ。」そう思って私もアリーをカヌーから降ろし、川下りの準備を始めた。
そうしていると、「やっぱり国体コースから下ることにしたの」と声をかけられた。
エッ?エエーッ!ここって国体コースの下流じゃなかったの!
慌てて近くの橋へ川の様子を見に走った。
そこからは見えるのは穏やかな流れだけ、その流れの先は右に曲がって崖の陰に隠れてしまって見えない。
今更カヌーを車に積み直す気にもならず、まあ何とかなるだろうと、半ばやけくそ気分で国体コースにチャレンジすることになってしまったのだ。
チャレンジすることを決めると、それまでは「何となるんじゃない」なんて言っていた人たちが急に真剣な顔つきでアドバイスしてくれる。
三段の瀬は右を通った方が安全だ、イヤ、私なら左側を行く、でもそれじゃ岩に張り付く危険も、一段目でカヌーの中は水浸しになる、それは大丈夫だが二段目では右側から一気に返し波が襲ってくるからバウマンは右サイドに思いっきりパドルを立てて・・・。
目が点になった状態で、ただハイハイとうなずくしかなかった。
上陸地点に車を回す車内で、「昨日下った時はもう少し水量が多くて、マジにヤバイと思った」なんて話をベテランの人がするものだから、ますます不安がつのってくる。
今回下るのは約30人のメンバー、その中で初心者と言えるのは去年一緒にクラブに入会したSさん夫婦と私たちくらいだ。
Sさん夫婦は今年になってホワイトウォーター専用のカナディアンを購入し装備も完全、そうなると一番危なっかしいのは私たち夫婦だけといことになる。
レスキュー体勢も整っているので自分の身体のことはさほど心配してないが、愛艇アリーが岩に引っかかって潰れてしまわないか、実はそれが一番心配だった。
スタート地点にカヌーを浮かべる。水も澄んでいて周囲は渓谷美と言った風情で、今まで下ったことのある川とはまるで違った雰囲気だ。
でも、その美しさの向こうにあるものは・・・。
ゆるゆると下っていくと直ぐに最初の難所が現れた。下流でのレスキュー体勢が整うまで、しばらく待機する。
私たちの前に、超ベテランのカナディアンタンデム(二人)艇が先に下ってくれるので、その後を忠実にトレースして下ることにした。
落ち込みながら右にカーブするコース、へたをすると正面の岩に張り付いてしまうことになる。意を決して突入した。
最初の波を乗り越えてそのまま右へ、上手く流心に乗っていけたので意外と簡単にクリアできそうだ。そう思った瞬間、あっという間にカヌーはひっくり返ってしまった。
カヌーを始めてから4回目の沈、でもこれだけ速い流れの中を流されるのは初めての経験だ。流され方の知識だけはあったので、無理をせずに下流に足を向けた状態で流れに身を任せる。時々岩にお尻がぶつかる。
それでも直ぐに瀞場まで流れついた。気が付くとかみさんのパドルが近くに流れてきたので慌ててそれを拾う。
投げ込まれたレスキューロープにつかまり、やっと岸に這い上がった。カヌーの方はかみさんと一緒に別の人に拾い上げられていた。
スタート早々の沈だったが、どうしてひっくり返ったのか思い出せない。スタートした途端の瀬だったので、心と体の準備が整ってなかったのかもしれない。
一息ついて再スタートしたが、直ぐに次の難所が現れた。多分S字コースと呼ばれている場所だったと思う。
そこをS字コースなりに下るか、右岸のストレートコースを下るか、後を付いていくつもりだったベテランタンデム艇はS字コースをそのまま下って行ったが、どう見ても右岸ストレートコースの方が我が家向きの気がした。ただ、その先が崖の陰になって見えない。
順番を待って右岸よりにスタート、何とか流れに乗って下り降りる。無事に抜けたかと思ったら、カヌーが崖の方に吸い寄せられた。
アッと思ったがどうすることもできない。そのままバウ(舟の前方)が岩に引っかかり、カヌーがくるりと後ろ向きになってしまった。
焦って後ろを振り返ると、目の前に落ち込みが迫っている。この体勢で落ち込みに突入しては堪った物ではない。慌ててパドル操作でカヌーの向きを立て直し、何とか前を向いたと思った瞬間、そのまま落ち込みに吸い込まれた。
そこを沈せずに何とか下って、一瞬気を抜いたところそのまま正面の岩に激突。それでも何とか無事にここをクリアすることができた。
まさに緊張の連続、これから先どうなることやら。落ち着きを取り戻してあたりを見回すとそこは橋の下、あれ?もしかして国体コースと呼ばれる部分はここまでだ!あれだけ恐れていた三段の瀬って何処だったんだろう?
後から聞いて、最初に沈した場所が三段の瀬だったことを知った。我が家が沈した場所は、その三段の瀬のチキンルート(易しい方のコース)。
みんなの話を聞いているうちに、私の頭の中にはもの凄い波が頭の上から落ちてくるようなもの凄い流れのイメージが作られていたのだが、実際はそれほどでは無かったのだ。
まあ、その時は水量が減っていたみたいで、増水したらさすがに怖くてここは下れないだろう。
最大の難関を下り終わって、後はのんびり行けるなーなんて考えていたが、直ぐに急な瀬が現れてなかなか気が抜けない。
するとまた難所が現れた。流れが真っ直ぐ正面の岩にぶつかっているような場所だ。ぶつかる手前で左に曲がらなければならない。
そこでも下流でレスキュー体勢が整ってから、順番に下り降りる。
いよいよ我が家の番だ。急な流れに乗って下っていくと、みるみるうちに岩が近づいてきた。寸前で左へカヌーを曲げる。ところが力が入りすぎてカヌーが上流側へ傾いた。
これは良くある沈のパターン。そのまま水中に吸い込まれてしまった。カヌーの中から防水バッグや防水ハウジングに入ったデジカメなどがプカリプカリと川の中に流れ出す。
そこは直ぐ瀞場になっていたので、先ほどの沈のように流されながら岩にぶつかることもなく、直ぐにレスキューロープにつかまり岸に這い上がった。
カヌーや流れ出したデジカメなども全て回収してもらい、頼りになるメンバーと下っていると本当に心強い。
この2回目の沈で少し吹っ切れた気持ちになった。流れに対する怖さも薄らいだような気がする。そこから先、次々と現れる瀬の中でも、かなり余裕を持ってしかも楽しみながら下ることができるようになった。
ただ、身体の方は疲労困憊。途中の休憩地点ではへたり込むように岸に上陸した。かなり疲れているのが自分でも解ったので、一生懸命栄養補給をする。
そこから先も流れを読みながら余裕を持って瀬に突入し、隠れ岩も余裕を持って避けながら下ることができた。もしかしてちょっとだけ上達した?そんな気分である。
そして最後の難関、噴水の瀬が近づいてきた。
右岸に上陸して下見に行く。すると先に見に行っていたメンバーが戻ってきて、ここはカナディアンでは無理です!と、きっぱりとした一言。
内心、ラッキーと思った。流れを見てから自分で下るのを止めてしまうと、後になって後悔するのが常だが、はっきりとこう言われると逃げ出したことにはならないのだ。
苦労してカヌーを瀬の下までポーテージして、あとは他のメンバーが噴水の瀬を下るのをカメラに収める役割に徹する。
あっさりとクリアしてしまう人、豪快にひっくり返る人、見ているうちに自分でも下れるんじゃないかなって気がしてきた。
そうしていると、次ぎにSさん艇がやって来た。アッ、ずるい!当然Sさん達もポーテージしたものだと思っていたのに。
Sさん艇は最初の落ち込みを落ちた途端、あっさりとひっくり返り水中に飲み込まれた。横で見ていた人が、まずいぞ・・・と声を上げたが、二人とも直ぐに浮かび上がり、そのまま下流に流されていった。
うーん、羨ましい、次の機会があれば絶対に我が家もここにチャレンジしてみたい。そう感じた。
そこからちょっと下ったところで今日の川下りは終了。
上陸すると、真っ青な空と優しい初夏の太陽が出迎えてくれた。
思いっきり水と戯れた楽しい川下り、しばらくカヌーに病みつきになりそうだ。
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