そしてその先にようやく大きなエディが見つかり、そこでようやく全員が一息つくことができた。
今回、久しぶりに川を下ると言うOさんは「緊張で心臓がバクバクしている」と引き攣った表情で語っていた。
元クラブ会長でバリバリのカヤッカーだったOさんも、お子さんの誕生と共に良きマイホームパパに成り果ててしまい、久しぶりに下る川がこれでは、昔の感覚も直ぐには戻らないようだ。
体制を立て直して再び下り始める。
次第に川霧が濃くなってきて、先の様子が見えづらくなってくる。
しかも川の流れは速い。
これでは真っ暗な田舎道をヘッドライトをロービームにしたまま時速100キロで走っている様なものである。
そのヘッドライトの灯りの中に道路に転がった樹木が照らし出され、慌ててハンドルを大きく切った。
ではなくて、川霧の中から川を完全に塞いでいる倒木が浮かび上がってきて、慌ててカヌーを岸に寄せる。
そのまま飛び降りようとするが足が引っ掛かって、なかなか抜けてこない。
かみさんを乗せたままカヌーはぐるりと下流を向いて流れていきそうになる。
やっとカヌーから降りれた私は川の中で尻もちをついたまま、必死になってカヌーを確保。
倒木の手前ギリギリである。
O橋さんも私達の隣で青い顔をしていた。
川霧はますます濃くなってくる。
これが流れの穏やかな川の川霧であれば、「幻想的な風景だ〜」なんて脳天気に喜んでいられるけれど、こんな川を下っている時は、命取りにもなりそうな邪悪な川霧でしかない。
そんな川霧の中に橋が浮かび上がってきた。
先を下っていたメンバーがその手前で上陸していたので、私達も岸に上がる。
見ると、川の中に立っている2本の橋脚の左側の方に倒木が引っ掛かっていた。
左のルートはその倒木に塞がれ下れな。2本の橋脚の真ん中のルートはその倒木に引っ掛かる恐れもある。右のルートが一番安全そうに見えるが、流れの速い本流がまともに橋脚にぶつかっているので、早めにそこから抜け出ないと橋脚に張り付いてしまう。
その橋の先には、川岸の樹木につかまりながら岸に這い上がっているY賀さんの姿が見える。
Y賀さんはそのまま真ん中のルートに入ってしまい、倒木に引っ掛かって沈したらしい。
他のメンバーは順番に右ルートを下っていく。
OC-1のN島さんはギリギリで橋脚をかわした。
その動きを見ていると、カヌーのバウが本流から抜け出してさえすれば、スターンが少しくらい橋脚にぶつかっても大丈夫そうなのが分かった。
幸い、橋脚にぶつかることなく私達もそこをクリア。
一番最後にO橋さんが下ってくるのが霧の中に微かに見える。
しかしその姿は途中で橋脚の後ろに入り見えなくなってしまった。
「えっ?張り付いたの!」
実際には、見えなくなっていたのは一瞬の間だったのだろうが、私には結構な時間が経過した様に感じられた。
後で確認すると、張り付いていた本人にとっては永遠の時に感じていたようである。
結局は真ん中のルートから舟と人間が一緒に流れ出てきた。
構えていたカメラをしまい、腰に付けていたレスキューロープを慌てて取り外す。
ロープを取り出すのに手間取っている間に、主のいなくなったカヤックだけが早い流れに乗って目の前を通り過ぎていった。
「えっ!また放しちゃったの?」
先月のルベシベ川例会でも、沈脱して舟を流したO橋さんなのである。
誰かが「K岡さん、舟追いかけて!」と叫ぶ。
「えっ?それで大丈夫??」周りを見回したが、この時点でカヤックに乗っているのはK岡さんしかいなかった。
一瞬躊躇した様にも見えたが、意を決したのか、流される舟の後を追いかけはじめるK岡さん。
そんな様子を横目にチラッと見ながら、ようやくロープの用意ができて、目の前を流れ過ぎようとするO橋さんに向かって投げる。
本当は事前に声をかけアイコンタクトができてからロープを投げるものだが、そんな余裕は無い。
私の投げたロープは一発でO橋さんの首に引っ掛かった。
これが投げ縄だったら、完全にO橋さんの首を締め上げたことだろう。
O橋さんがそのロープにしがみつき、ロープが一杯に伸びきった瞬間、ガツンとした衝撃がロープを伝わり、私も危うく水の中に引きずり込まれるところだった。
軽量級のO橋さんが身体一つで流れているのだから、そんなに引っ張られることはないだろうと予想していたのだが、川の流れの速さが計算から漏れていたのだ。
それでも、228君も手伝ってくれて何とかO橋さんを救出。
T津さんが、O橋さんの舟と、それを追いかけていったK岡さんを探すために、カヤックで出ていく。
Y賀さんと、久しぶりの川下りのOさんはここでリタイアすることとなり、歩いて車を取りに戻る。
この先、川は更に厳しい区間に入っていくとのことで、ツアーリーダーのI山さんにより例会の中止が決定された。
私がカヌークラブに入ってから、初の途中中止である。
私はO橋さんを真ん中に乗せて、そのまま下り続けるつもりでいたので、この決定はちょっと意外だった。
でも、この先はそれだけ大変だと言うことなのだろう。
かみさんだけは、この決定を一人で喜んでいるみたいだ。
I山さんとI上さんは、先に下っていった二人を追いかけることとなる。
その場に残されたのは舟を失ったO橋さんと、N島さんに228君。
N島さんと228君は、この先も下る気満々だったようで、ちょっと不満そうである。
何時もは元気なO橋さんだが、さすがにしょぼんとしている。
皆、別れ別れになってしまったが、この付近は携帯が通じるので助かった。
途中でI山さんから連絡が入る。
O橋さんの舟は見つかったけれど、K岡さんとT津さんの姿が無いので、そのまま追いかけるとのこと。
それが意味することは、K岡さんが沈して、T津さんがその後を追いかけていったと考えてほぼ間違いはないだろう。
O橋さんは、責任を感じて、ますますしょぼんとなってくる。
次に入った連絡によると、二人と合流できたけれど、K岡さんの舟が流木のストレーナーに張り付いていて、それを回収するのに苦労しそうだとのこと。
でも、これで何とか事件は解決することになりそうで、皆ホッとした。
歩いて車に戻ったY賀さんに電話して、迎えに来てもらう。
そうして次に入ったI山さんからの報告。
何と、回収に失敗してK岡さんの舟を流してしまったというのだ。
そしてそれを追いかけている途中で今度はT津さんが、水面ギリギリに倒れ込んだ1本の倒木ストレーナーにまともに張り付いてしまい、危ういところだったという。
一体現地では何が起きているんだ?
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