カヌークラブの7月例会はヌビナイ川だ。 歴舟川の支流であるこの川は、その渓相の美しさで沢登り愛好者に知られているし、その水の驚くような透明度でカヌーイストにとっても憧れの川である。 去年初めてヌビナイ川を下ったけれど、大きな玉石がゴロゴロと積み重なった川底は我が家のアリーにとってはちょっと厳しい川でもある。 スタート地点は大きな砂防ダムの下流から。小さな瀞場にカヌーを浮かべると川底がはっきりと透けて見えて、まるで宙に浮かんでいるような気分にさせられる。ワクワクしてくる川下りのスタートである。 ため息が漏れるような美しい風景の中を夢見心地で下っていくと、直ぐにその先で現実が待ち構えていた。 前回下ったときに命名したアリー潰しの落ち込みである。 大きな玉石が積み重なった1m程の落ち込み。その玉石のすき間を水が流れているので小さなカヤックでも、そこを通るのに難儀する。 ましてやアリーでは完全にお手上げである。 前回はその落ち込み部分にカヌーが引っかかったのに、今回はそこに達する前に石に引っかかって進めなくなってしまった。 前回と同じような水量だと思っていたけれど、どうやら今回の方が少ないようである。 これではちょっとこの先が思いやられそうだ。 その後は玉石の瀬と瀞場が交互に現れるが、何とかギリギリで座礁することも無く下ることができた。 ちょっとした落ち込みとその先に岩が待ち構えている場所があった。 直ぐに左に向きを変えないと、その岩にまともに衝突してしまう。 それほど難しい流れでもないので気軽にその落ち込みに入ったが、何故かその後カヌーの向きが変わらない。 目の前に迫ってくる岩。衝突の衝撃に備えて体に力を込めたが、ガツンとくる衝撃では無くて、ヌルーっとした感触とともにその岩の横にカヌーが乗り上げてしまった。 そのままカヌーを後ろに下げて何とか抜け出すことができたが、まともに岩にぶつかっていたり、乗り上げた岩が鋭角に尖っていたりしたらアリーは相当のダメージを受けていたはずである。 私は右漕ぎなので、右へターンするときは比較的自由にカヌーを操れるけれど、左へ急激にターンするときはかみさんにも頑張ってもらわないと上手く曲がれないのだ。 かみさんはあまり気にしていないようだけれど、私にとってこのミスはちょっとショックが大きかった。 アルミフレームにゴムの船体布を被せただけのアリーは、ちょっとした拍子で簡単に潰れてしまう。アリーでこのような川を下るときは細心の注意が必要なのである。 美しい風景に見とれたり、玉石だらけの瀬に緊張したりしながら下り続ける。 けいせき橋付近の渓谷はヌビナイ川の中でも一番美しいところだ。今回は空が曇っているのでその風景が少しくすんで見えるのが残念だった。 倒木で塞がれているところや、水の少ない瀬ではカヌーを降りて歩かなければならない。表面がツルツルして滑りやすい玉石、水の流れもかなり速く、そんなところをアリーを引っ張りながら歩くのは、かなりの重労働である。 前回下った時は数回歩いた程度なのに、今回は頻繁に歩かなければならない。このような川では5cm程度水量が増減するだけで、その下りやすさがガラリと変わってしまう。
川が直角にカーブする場所に大きなプールができていて、そこの水は美しいコバルトブルーに染まっている。 ちょっと一休みしたかったけれどその手前に釣り人が入っていたので、邪魔をしないように足早に通り過ぎるしかなかった。 それにしてもどんな場所にでも釣り人はいるものだと、何時もながら感心させられる。彼らから見れば、こんなところをカヌーで良く下ってくるものだと私たちを見ているのかもしれない。 横を通り過ぎるときに「すいません」と声をかけると、優しい笑顔で答えてくれた。 街の近くの川では釣り人とカヌーの関係は決して良いものではないが、このような素晴らしい環境の中ではお互いに優しくなることができるのだ。 先行していたベテランメンバーから、次のところは真ん中に岩が出ているから注意した方が良いよとアドバイスを受けた。 前回下った時は一度だけ岩に乗り上げているが、多分そこが同じ場所だろう。 右岸寄りに水が集まり、岩壁に沿った細い急流となっている。そこをカヌーで下っていくと、その流れを遮るように岩が張り出していた。 そこは、ちょっとだけ左へかわせば簡単にクリアできそうである。 がしかし、苦手な左へのターンである。あれ?曲がらない!と思った瞬間にまたしても岩に乗り上げてしまった。 おまけに今回は、乗り上げると同時に後ろ側から水が流れ込んできて、あっと言う間に水舟になってしまった。これで横向きに張り付いていたら、直ぐに潰れてしまっていたかもしれない。 これだけ水が入ってしまうと、その場で水を出すこともできない。他のメンバーにロープで引っ張ってもらって、流れの緩いところまでカヌーを動かし、そこでようやくカヌーの水を抜くことができた。 こんなトラブルがあると一気に体力を消耗してしまう。
次の難所は落ち込みの下がちょっとしたストッパーになっている場所である。 カヤックがそこにハマると抜け出せなくなってしまうみたいだが、カナディアンのような大きな舟ならば全然問題は無い。 その手前の瀬を軽くクリアして最後の落ち込みに入ったところ、その下のホールでTさんのカヤックがもがいていた。 今更避けることもできないので「ごめんなさい!」と言いながらそこに突っ込んだ。 その衝撃でTさんのカヤックはストッパーから抜け出して、我が家も無事にそこをクリア。 危うくアリーの下敷きにしてしまうところを、「おかげで抜けることができた」と逆に感謝されてしまう。 そこを境として、ヌビナイ川は山間部を抜けてやや開けた地形の中を流れるようになる。 ただ、川の様子はほとんど同じままだ。やや川幅が広がった分、余計にカヌーの底を石で擦るようになってきた気がする。 薄いマットは敷いてあるものの、アリーを膝立ちで漕いでいると、川底の石にぶつかった衝撃が直接膝や足に伝わってくるのである。 アリーで瀬の中を漕ぐときはそんなことにも注意しなければならない。 それでも何度か思いっきりぶつけてしまい、足の指が脱臼したのではと思うくらいの激痛に見舞われた。
そうしてヌビナイ川と歴舟川とその間の中の川の三つの川が合流する付近まで下ってくると、一気に視界が開ける。 これで青空が広がっていれば最高なんだけど、どんよりとした曇り空の下で見るその風景はとっても寒々としたものだ。 最後の小さな瀬を抜けてキャンプ場前の川原に到着。 二度目のヌビナイ川を下り終えた感想は、「ヌビナイ川を満喫」と言うよりも「ヌビナイ川お腹一杯もう沢山」と言った感じだった。 次に下るときは天気が良くてもう少し水量が多いときにしたい。
川下り当日の歴舟川の水位(2006年7月16日12:00) 歴舟川尾田観測所 102.12