今月のカヌークラブの例会は、道南の遊楽部川である。
高知の四万十川や岐阜の長良川に劣らない自然の残る清流、それほどの難所もなくのんびり下れる川と言うことなので、今回は愛犬フウマも参加させることにした。
クラブのメンバーは八雲町内のさらんべ公園に宿泊していたが、我が家は森町の緑とロックの広場に泊まっていたので、集合時間の9時合わせてにさらんべ公園に到着した。
そこから皆で、スタート地点のセイヨウベツ橋まで移動。駐車スペースは狭くて10台も停めれば一杯になってしまう。
早速、橋の上から川の様子を眺めるが、スタートしてすぐに護岸ブロックに流れがぶつかっている場所があった。いやらしい流れである。
そこの下流からスタートするのかなと思ったら、そのまま皆、橋の下にカヌーを降ろしはじめた。
「エッ?ここから行っちゃうわけ?」
100mも下らないうちに沈をしてしまっては堪らないが、我が家だけそこをエスケープするのもちょっと恥ずかしい。覚悟を決めて下ることにする。
橋の下の部分も結構流れが速い。皆がスタートするのを待って後ろの方から行くことにした。
皆、何事もないような感じでそこを無事にクリアしていく。覚悟を決めて我が家もスタートしたが、ヒヤヒヤしながらも何とか沈もしないでそこを下ることができた。
自分が下ってしまえば、後は次ぎに下る人が沈するのを楽しみに待つだけだ。期待していたのに、皆無事にクリアしてしまった。
それでも、クラブに入会したばかりでまだ経験の浅いメンバーの一人が、「いやー、おっかなかったですねー。」
なーんだ、びびってたのは我が家だけじゃなかったんだと、少しホッとする。
すると、先月下見でここを下っていたベテランメンバーが、「この後も結構こんな場所がありますよ。」
ゲゲッ、遊楽部川ってのんびり下れる川じゃなかったの!
その人の言うとおり、その後も小さな瀬や落ち込みが連続して、なかなか気を抜く暇がない。
そのうちに、やや大きな落ち込みが前方に現れた。でも、真っ直ぐに落ちているだけなのでそれほど問題も無さそうである。
気合いを入れてその流れの中に突っ込み、真っ白な波の中に入ったと思った途端、突然カヌーが傾いた。
かみさんの体が右に傾いていくのが見えたが、抵抗する間もなくそのままカヌーはひっくり返ってしまった。
ガツンと体のどこかを岩にぶつけた感触があった。直ぐにカヌーを捉まえて、流されていくかみさんとフウマを確認する。
かみさんはどうなったか解らないが、とりあえずフウマは岸に向かって泳ぎはじめたみたいなので、安心してカヌーを岸に引き上げた。
かみさんとフウマも無事に岸に上がれたようである。
結局、最初に沈したのは我が家ということだった。格好悪いので、大急ぎでカヌーの水を出して、直ぐにまた流れに戻った。
そこからちょっと下ったところで小休止。
かなり下ってきたつもりが、まだ3分の1も来ていないとのことである。ハードな川下りになりそうな予感がした。
最初は大人しく乗っていたフウマであるが、一度沈をしてからはいつもの脱走癖が現れ始めた。
カヌーから身を乗り出して、チャンスがあればそこから飛び出そうとするのだ。
これまでは、カヌーに乗っているのに退屈するからだろうと思っていたが、どうやらそうでは無さそうだということが解ってきた。
水に濡れたカヌーが嫌いみたいなのだ。
カヌーに少しくらい水が入っても大丈夫なように、スノコを改造してフウマ用のスペースを作っているのだが、それも濡れてしまうと大して意味がないみたいである。
時々自分から水の中に入っていくくせに、カヌーの中で足が水に濡れるのは嫌だというのだ。
飛び出しそうになるたびに、ビーフジャーキーを見せてフウマの気をそらせる。
これじゃあ、次からは川下りには連れて来れないなと思ってしまう。
遊楽部川は、右へ左へと流れを変える。
そんな場所では、浅瀬の落ち込みがあって、その先は岸にぶつかって急な流れになる。
その浅瀬が難物で、水量が少ないものだからどうしてもカヌーの底が岩につかえてしまうのだ。
堅い舟ならば、そんな場所でもゴリゴリと乗り越えられるみたいだが、我が家のアリーは柔らかいのが災いして、石にピタッと吸い付くような感じで引っ掛かってしまうのだ。
水の少ない川はこれがあるから嫌いである。
でも、遊楽部川の水はとても澄んでいて川底の石が煌めいて見える。周囲の新緑もとても爽やかだ。
もう少し水が多ければ最高の川下りが楽しめるだろう。
我が家の前を下っていた一人乗りのカナディアンが、瀬の中で岩に引っ掛かり横向きに流れを塞いでしまった。
それを避けようとしたが、こちらのカヌーも岩にぶつかり止まってしまった。
そこに後続のカヤックが突っ込んでくる。
カヤックがぶつかってきて拍子で、先に引っ掛かっていたカナディアンは岩を外れてそこを脱出できたようである。
あれれと思っている間に、後続のメンバーが我が家のカヌーの横を通り過ぎていった。
気が付くと、我が家だけが流れの中に取り残され、前方が岩に引っ掛かり、そのまま斜めになって、後ろは倒木に引っ掛かっている。急な流れに押しつけられて、完全に張り付いてしまった状態である。
ちょっとカヌーが傾くと、水がガンネルを越えてドドーっと流れ込んできたので慌ててバランスを保つ。倒木を手で押してみたが、カヌーは全く動かない。
他のメンバーは遠く下流からこちらを眺めているだけである。助けを期待することも不可能で途方に暮れてしまった。
ところが、ふと後ろを振り返ると川底が見える場所があった。
「なーんだ、浅かったんだ。」
私だけがカヌーから下りて、カヌーを後ろに引っ張り、岩と倒木の隙間に真っ直ぐに向けてから、一気にカヌーに飛び乗った。
バランスを崩すこともなく何とか流れに乗ることができ、ホッとして他のメンバーが待つ方に目をやった。
心配そうに見守ってくれているメンバーが見えたが、それを遮るように、横1列に並んだブロックが行く手を塞いでいた。
もしかして、皆が心配していたのはこれだったの!
必死になって、パドリングの向きを変えて横に移動する。ようやく、そのブロックの隙間までたどり着き、かろうじてそこをすり抜けることができた。
冷や汗の連続である。
河原での昼食を終えて再スタート。
これまでのカヌークラブの例会は短い距離が多かったが、今回は久しぶりの10kmを越えるツーリングである。
この程度の距離ならば何回か下ったことはあるが、中身がハードなものだから結構疲れてきた。ゴールを目指して気合いを入れる。
相変わらずフウマは脱走を企てて、カヌーのガンネル部分にほとんど体を乗り上げた状態だ。
そんな状態で瀬の中に入っては堪らない。その度にパドルでフウマの頭をゴツンと叩き、瀬に突入する。
そうして、遊楽部川最大の難所の瀬に突入する。川床が岩盤の階段になっている場所だ。
そこが、最大の難所だったとは後になって知ったことである。
最初の落ち込みで、また他のカナディアンとぶつかって、落ち込みの岩の上で真横を向いた状態で引っ掛かってしまった。
今回は何とか、2艇で絡み合ったままでも何とか水流に押されてそこを脱出、直ぐにカヌーの向きを変えたが、そこから先は岩盤の中を縫う複雑な流れになっていた。
右!、左!
かみさんに声をかけながら必死になってパドリング、そして最後の急な落ち込み、エイッと突っ込んだ瞬間、かみさんの体が大きく傾いた。
もう沈するのは嫌だ!
懸命にバランスをとると、何とかカヌーは元に戻った。
イヤッホー!という歓声が聞こえる。
鮮やかだったのか、危なかしかったのか、とりあえずは無事に難所を切り抜けることができたようだ。
最後の方はもうヨレヨレである。
流れの緩いところでは強い向かい風に悩まされ、パドリングする腕も痛くなってくる。
多分これが最後の落ち込み、そう思いながら突入していくと、岩を避ける力も無くなっていたのだろうか。またしても岩に乗り上げてしまった。
私が後ろに降りてカヌーを引っ張るが、今度はビクともしない。
見ると、カヌーの中央付近がモッコリと盛り上げっている。もろに岩の上に乗り上げてしまったようだ。
かみさんにも降りてもらわないとどうしようも無さそうだが、カヌーの前の方は流れも急で危険である。
カヌーの中で後ろに移動させて、やっと降りることができた。
最後の最後まで気を抜けない川である。
我が家のカヌーは底の部分に丸みがついているのだが、気が付くとそれが潰れて真っ平らになってしまっていた。(後で解ったが、穴も開いていたようである。)
そしてようやく、さらんべ公園に上陸。
ちょっと痛いなと思って肘を見てみると、大きく擦りむけて血が滲んでいた。最初の沈の時に岩にぶつけて出来た傷みたいだ。
ウェアにも破れた場所があった。
たっぷりと楽しんだ川下り、正直言ってしばらく川を見るのはうんざりといった気持ちだが、疲れが取れる頃には、また体がうずうずしてくるんだろうな〜。
(2004.5.23)
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