この後は、噴水の瀬まではのんびりと下れるはずだ。前回の経験からそう思っていたが、なかなかどうしてその後も手強い瀬が次々に現れる。
水量が多いので波高もちょっと高くなっているみたいだ。
そんな瀬の一つでは、波を乗り越えながら無事にクリアしたと思ったら、カヌーの中に3分の2くらい水が入っていてビックリした。カヌーの中に水を入れないように下るのもテクニックの一つなのだろう。
カヌーをひっくり返して水抜きしていると、底の部分に大きな裂け目があるのに気が付いた。渡月橋の落ち込みで岩に乗り上げた時に裂けたのだろう。持っていたガムテープで補修しようとしたが、完全に乾かないとガムテープはくっつかない。それほど急に浸水してくる訳でもないので、気にしないでそのまま下り続けることにする。
瀬の中でバランスを崩し、かみさんの体が沈寸前まで傾くことが何回かあったが、その度に踏ん張ってカヌーを立て直すことができた。以前ならば、そのまま抵抗もできずにひっくり返っていたのに、この辺は経験によるものなのだろう。
やがて見覚えのある場所が見えてきた。
流れが真正面の岩にぶつかって、そのまま直角に左へ向きを変えているのだ。前回はここでも沈をしている。岩を避けるために必死になって左へ曲がろうとし、結局カヌーを傾けすぎて上流側へ沈してしまったのである。
今回はそんな事態にならないように、早めにカーブの内側にカヌーを寄せようとしたが、予想以上に流れが速くてどんどん岩の方に押しつけられ、かろうじてぎりぎりでかわすことができた。
さすがに今回の例会では沈脱者も多く、レスキューの方も大忙しである。
その合間に、カヌーの穴を補修することにする。
雲が切れて太陽の光が射してきたので、カヌーの底をその光に当てればあっと言う間に乾いてしまう。ファルトのIさんが補修用のテープを持っていたので、それを借りて補修したが、ガムテープよりはかなり強力な接着力だ。次回からは我が家でも用意しておいた方が良さそうだ。
その先の瀬では、つい油断して、また隠れ岩に捉まってしまった。そのままカヌーは横を向いてしまい、バウとスターンが岩に引っかかり、完全な張り付き状態である。かみさんの椅子の下あたりが大きく盛り上がり、フレームまで曲がってしまっている。
諦めて二人でカヌーから降り、岩から剥がそうとしたが、強い水流に押しつけられているので、なかなか動かない。やっと動いたと思ったら、水流に押されるカヌーにズリズリと体が引っ張られてしまう。
かみさんが、「ちょっと、どうするのー!」と焦っているが、私は、そのまま流されてもすぐに岸に上がれそうだし、前方には他のメンバーもいるので、大して心配はしていなかった。
結局、支えきれなくなって、カヌーと一緒に流されることにした。前方のメンバーは、我が家の危機には全く気が付いていないようで、別の方を見ている。ライフジャケットに付けてあるホイッスルを吹くとようやく気が付いてくれて、私とカヌーを引き上げてくれた。
かみさんは、まだ最初の岩の上で固まったままだったので、そのまま流れに飛び込まさせて、流れてくるところを手を掴んで拾い上げてやった。
ウーム、これを沈としてカウントすべきかどうか迷ってしまうところだが、岩を避けきれなかったのは大きなマイナスポイントだ。
昼の休憩で上陸する頃には、さすがに体も疲労困憊だった。
おにぎりをむさぼるように食べて、10秒チャージのウィダーインゼリーを飲んで体力の回復を図る。
最初は、「今回の川下りでは噴水の瀬に絶対にチャレンジするぞー」と、かなり張り切っていたのだが、これだけ流れに翻弄されていると、次第にその意気込みも薄れてくる。
休憩も終わって、再び流れに乗る。そしていよいよ、噴水の瀬の手前までやってきた。
まずは下見である。しかし、その下見の場所まで行くのも、川底はギザギザの尖った岩で、しかもヌルヌルしているのでとても歩きづらい。
噴水の瀬は、前回来たときよりもその迫力を増しているような気がした。たとえ沈してもそのまま下流に流されれば良いだろうと思っていたが、複雑に重なり合う白い波を見ていると、そうでも無さそうな気がしてくる。
ベテランメンバーが、下見もしないでそのまま突っ込んできたが、波に翻弄されながらも軽くクリアしていった。それを見ていると、一度落ちた後の横からの波がくせ者みたいだ。それに、最初に落ち込みに入る部分もかなり影響しそうだ。
それ以上見ていても怖くなってくるだけなので、舟まで戻ることにする。
するとかみさんが、泣きそうな顔で「絶対に嫌だ、こんなとこ下れるわけないじゃない」なんて、今更往生際の悪いことを言い始めた。
「何言ってるんだ。こんな足場の悪いところでポーテージなんかできないだろう。行くしかないぞ。」と、そんなかみさんの態度は全く無視してしまう。
そうしてカヌーに乗り込むと、かみさんもようやく決心を固めたみたいだ。
レスキュー体制が整ったところで、初心者グループが順番にチャレンジしていった。
ところがである。その難しい瀬を、皆軽々とクリアしていくのだ。沈は必至、チャレンジすることに意味があると考えていたのに、これはちょっと困った事態だ。
また我が家だけ、沈することになるのか・・・。
そう考えていた矢先に、Iさん夫婦が去年に引き続き見事な沈をしてくれたみたいだ。それで少し気が楽になって、我が家も安心してチャレンジすることができる。
慎重にねらい定めたポイントに向かってカヌーを進める。
その入り口に立ったメンバーが、場所を示してくれている。
そしていよいよ落ち込みのすぐ前までやってきた。
漕げ、漕げ、漕げーっ、と言う声を横に聞きながら、一気にカヌーは落ち込みの中へ。
するとすぐに、突き上げられるようにカヌーは次の波の上に乗りかかった。
一瞬カヌーが傾くが、パドルで波を押さえつけるように踏ん張る。
なんだかロデオで荒馬に乗っているような感じである。
自然に「イヤッホーッ」という声が出てきてしまう。
そこをクリアしてしまうと、満足感とともに、なんだか呆気なかったような気がしてきた。
後はゆっくりと、後続メンバーの様子を見学する。
カヤック初参加のYさんがやってきた。Yさんは、ここに来るまでも沈の連発で、体力もかなり消耗しているはずなのに、それでも噴水の瀬にチャレンジする根性には感心してしまう。
カヤックの操作もままならない状態で、明らかに変な場所から落ち込みに入ろうとしている。するとその前でバランスを崩し、ほとんど沈したような状態のまま白波の中にのみ込まれていった。
多分、この次に下るときはYさんは見違えるくらいに上達しているのだろう。
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